“化学者C助教授の一日”の真相

学園だより第28号 私の研究室

“化学者C助教授の一日”の真相


背景にある原理を深く掘り下げる

 たとえば,水の中に墨を一滴垂らした時に起こる現象を観察する実験がある。どのようなことが起こるかは皆さん想像できると思う(想像できない場合は,簡単な実験なのでご自分でやってみられることをお薦めする)。墨は空気中に発生した雲のように拡散しながら全体に広がり,ついには全体が均一な黒い液体となる。(これ以外にも水面上にすばやく薄く広がる様子も見られるし,人によってはその他の現象に気がつくかもしれないが,取り敢えずこれらには触れない)ここで起こる現象には幾つかの過程が混在していて,それにあわせていくつもの切り口が考えられる。

 まず,一番最初に見られるのは*対流*である。黒い液体は等方的に広がるのではなく,まず下の方に向けて落下する。それにあわせて拡散が観測される。この現象を流体として扱った場合,対流と拡散という二つの概念で現象を整理することができる。この場合,液体の密度差と重力の大きさ,拡散に関するFickの法則を説明する等,果ては流体力学による説明まで可能である。

 また,更に液体全体を一つの物理系と考えて現象を理解しようとすればエントロピー増大の原理という立場からの理解もできよう。更に分子論的立場から統計力学の導入も可能かと思う。

 いずれにしても,よりレベルの高い観点からの理解をすることが即ち理解を深めることになる。  


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