日本で最初のノーベル賞


これを読んでいる人で,ノーベル賞を知らない人はいないと信じる。スウェーデンの実業家ノーベルの莫大な遺産を使って,その前年に人類幸福に具体的な大きな功績のあった人に贈られるものである。物理学,化学,生理学医学,文学,平和,経済学の各賞がある。一般には,現在世界中で贈られるいろいろな賞の中ではもっとも名誉ある賞であると考えて間違いない。村上陽一郎氏のように,その使命を終えたと評する人もいるが。

この大学に赴任してきて驚いたのは,学生の中で,日本のノーベル賞受賞者の名前を知っているものがほとんどいないということだ。ノーベル賞至上主義を唱えるつもりはないが,教養として知っておいたほうがいいのではないか?たかが10人かそこらの話なのだから(註:ページ初出時点)。アメリカのように何百人もいる,というのとは違うのだ。もちろん,日本人ノーベル賞受賞者の名前を全員いえるのと,歴代天皇の名前を全員いえるのと,東海道本線の駅の名前をすべていえるのとどれがが一番えらいのか,という判断は読者に任せる(ちなみに私はノーベル賞受賞者しか言えない)。

日本人受賞者は以下の表のとおりである。 2000年,2001年度と,2年続けて日本人から受賞者を輩出したので,多少は意識もかわっただろうか。
 
1949年 物理学賞 湯川 秀樹
1965年 物理学賞 朝永 振一郎
1968年 文学賞 川端 康成
1974年 平和賞 佐藤 栄作
1973年 物理学賞 江崎 玲於奈
1981年 化学賞 福井 謙一
1987年 生理学・医学賞 利根川 進
1994年 文学賞 大江 健三郎
2000年 化学賞 白川 英樹
2001年 化学賞 野依 良治
2002年 物理学賞 小柴 昌俊
化学賞 田中 耕一
2008年 物理学賞 小林 誠
益川 敏英
南部 陽一郎
化学賞 下村 脩
2010年 化学賞 根岸 英一
鈴木 章
2012年 生理学・医学賞 山中 伸弥
2014年 物理学賞 天野 浩
赤崎 勇
中村 修二
2015年 生理学・医学賞 大村 智
物理学賞 梶田 隆章
2016年 生理学・医学賞 大隅 良典
2016/10/07追加

2002/10/09補遺
2002年度のノーベル物理学賞が小柴昌俊東大名誉教授(+アメリカ人研究者2名)に贈られることになった。早速上の表に追加しておいた。3年連続で日本人が受賞するのは快挙といっていいだろう。正直,こんなに早くこの表を改定する必要があるとは思わなかった。 タイガース優勝の歴史という表なら,しばらく改定する必要がないかもしれないのに...(わたしはタイガースファンだ)
ところで,最近の調査報告によれば,日本人の大人は,科学に対する素養が先進諸国の中で最低レベルらしい。それを反映して,各マスコミ報道は,小柴教授の研究成果の紹介をするのに大変苦労している。今回の受賞理由となった研究成果が,実生活に密着した応用がほとんどないからである。小柴教授の受賞が基礎科学への関心を喚起することにつながればよいのだが。

2002/10/15補遺
小柴教授に続いて島津製作所の田中耕一さんという方(+アメリカ人研究者2名)がノーベル化学賞を受けることがきまった。二日続きの受賞者決定に日本中がさらに沸きかえっている。さらに,学者然としない田中さんの人柄に人気が集まり,先週のワイドショーは田中さん一色だった。はっきりいって無名だった田中さんのノーベル賞受賞は,すばらしいことで,同じ化学を専攻する無名学者としてはご同慶の至りである。しかも,博士号をお持ちでないというのは快挙である。残念ながら,田中さんのお仕事の内容については,解説する程よく理解していないのであしからず。
小柴教授のときは発表の翌日の更新だったのに,こちらの更新が遅れたのは単に私の仕事が忙しかったからです。しかし,こう頻繁に更新する必要が出てくるとは夢にも思わなかった。

2002/10/19補遺
いつまでこのリンクが存在するかわからないが,えらく急にノーベル賞受賞者が増えたと思ったら,こんな記事が出ている。
http://www.zakzak.co.jp/top/t-2001_12/3t2001121713.html
日本、ノーベル賞大作戦にブーイング(2008年10月現在このリンクは存在しません)
日本政府がストックホルムに宣伝工作用事務所を開いたこと,ノーベル賞関係者の日本旅行招待などを計画していることなどを英国紙が報じたとのことである。
イギリスからの受賞者が減少していることから,この英国紙の記事は,基本的にはやっかみ半分なのだろうが(そもそもノーベル賞関係者への接待をロビー活動と呼ぶのか?),ここのところの急増は何らかの活動の結果だというのは,ありえない話ではないと思う(何も裏付けは無いが)。文部科学省も,ノーベル賞受賞者数の数値目標(50年間に30人)を公表してしまった以上,自らの正当性維持のために動いている可能性はあるかも...もしそうだとしたら,政府の行動はあさっての方向にベクトルが向いているということだ。いつものことだが。
ところで...文部科学省も機密費持ってるのかなぁ...関係ないけど。

2004/02/09補遺
私としたことが更新が遅れてしまった。ノーベル賞のことではなく,タイガースのことだ。昨年,タイガースはセントラル・リーグで優勝した。2002/10/09の補遺でタイガース優勝の歴史ならあまり更新する必要がないなどと書いてしまったら,翌年には優勝したことになる。ひょっとすると,タイガース優勝の歴史に関する表を作っておけば,今年の秋には更新する必要があるかも...というわけで,今度はこの表を作ることにする。ただし,別ページだ。

2008/10/07補遺
2008年度のノーベル物理学賞が日本人3名に贈られることになった。この表の更新も6年ぶりである。今回のお三方は,どの人も以前からノーベル賞もらえなきゃおかしいと思っていた人たちである。別に知り合いでも何でもないが,ようやくもらえることになってご同慶の至りである。

2008/10/08補遺
昨日の物理学賞に続き,化学賞にも日本人が含まれていた。なんかあったの?というぐらいのノーベル賞ラッシュ再来である。
そのこととは関係ないが,昨日からノーベル賞関係のウェッブページを見てて,こんなページを見つけた。特許庁のページである。
http://www.jpo.go.jp/seido/rekishi/japanese_nobel.htm
日本人ノーベル賞受賞者と特許(2012年10月現在このリンクは存在しません)
2007/12/13の日付なので今年(2008年)の受賞者は入っていないが,それ以前の自然科学系の受賞者の特許出願数の表である。1件も特許出願していない人が3名,最多が福井謙一氏の191件で,数はバラバラである。ところが,本文の最後に「優れた研究業績を上げたノーベル賞受賞者と特許との関わりが少なからず見てとれることは、研究成果の社会的な活用を図るという観点から大変興味深いことといえるでしょう。」という文章がある。あの表のどこをどう見れば,特許数と受賞者の間に関わりを見いだすことができるのか全く理解できない。むしろ全く関係がないという結論にいたる方が説得力がある。そもそもノーベル賞というのは,特許権が絡むような応用的研究に与えられるものではないということを,ねじ曲げて書いた文章としか思えない。特許庁としては,関係があってほしいのかもしれないが,我田引水にもほどがあろう。百歩譲って「化学賞受賞者は相対的に多くの特許出願数を示しており,この分野の基礎研究が応用に近いことを示している」程度の結論なら特に大目に見るのだけれど(どっちにしてもサンプル数が少なすぎるとコナン氏に怒られるだろう)

2010/10/07補遺
今年も日本人科学者がノーベル賞を受けることになった。期待されていたiPS細胞の方ではなかったが。
いずれも有機化学反応に関する業績で,門外漢の筆者には内容もその評価の是非もわかりまへん。 ともかくいろいろな有機合成で有用な触媒反応をみつけた,ということらしい。 内容についてはこのぐらいで勘弁してください(誰からも書けとはいわれてないけど)。
ところで,すぐ上↑の記述でも特許との関連について書いたが,今回ノーベル賞を受けることになった鈴木教授が記者会見で(この研究業績で?)特許を取らなかった事について質問された。 当時は,特許を取ることが“がめつい者の行為である”との風潮があった旨(正確な表現は不明)のお答えがあったようだ。 今なら「こんなに有用な業績なら,国家戦略として特許とるべきだ,なぜ取らなかった。」みたいなことを言われかねない。 そうなると「科学研究全体主義」だね。
それにしてもこの10年をみると,文部科学省の宣言どおり「50年で30人のノーベル賞受賞」というのが現実味を帯びたペースになっている。 とはいえ,今回も30年以上前に行われた研究成果に対して贈られたものだ。 研究が行われたときはそのようなスローガンはなかったはずで,今回も文科省のおかげではない事だけは間違いない。 息切れしないことを祈る。しかしこう人数が増えてくると,名前を覚えるのが困難になってきた。 このページの更新もいつまで続けるか,そろそろ考えてもいいかも。報道をみてると書きたいことがいくつも出てくるのだが。

2012/10/09補遺-1
2年前の補遺で期待されていた人として書いたiPS細胞の方が,今年度のノーベル生理学・医学賞をお受けになった。
研究の内容について,詳しいことはよくわかりません。他の人に聞いてください。 ノーベル賞受賞対象の研究について,内容の問合せを受けたことはありませんが。 ついでにどうでもいいことを書くが,今回の研究はものすごく特許と絡んでいる。 2008年の補遺(↑↑)に書いたようなことと絡んで,特許庁のページに注目である。 と,書いて2008年にリンクを張ったページを見ようとしたらすでに削除されているようだ。

2012/10/09補遺-2
最近,日本人の受賞者が多い。 今朝の「おはようコールABC」によれば,2001年以降のノーベル賞受賞者数は,ヨーロッパの国々を押さえ,アメリカに次いで第2位だそうな(アメリカはダントツ)。 日本人の研究が,以前にも増して広く欧米に認められるようになったということだろう。
何時の頃からか,ウィキペディアに「日本人のノーベル賞受賞者」というページもできているようだ。 私も何年かに一回更新するというのもめんどくさいので,近いうちにこのページの更新をやめようと思う。 最新の情報は上のリンクをたどってください。 ちなみに,タイガース優勝の歴史も,2005年以降,更新できないままである。今シーズンのような体たらくでは,まだしばらくは更新できそうもない。

2012/10/09補遺-3
今日の補遺ー1で特許のことに触れた。 特許申請について詳しくはないが,今回受賞した山中さんの特許に対する考え方は大変新しいのではないだろうか。
従来,特許は研究から派生する技術を行使する権利を独占し,利権が分散することなく,多くの見返りがあることを目的として出願されるものだと思う(間違ってたら教えてください)。 山中さんの考え方は,関連する特許を広く取得し,特許技術が独占されることのないよう,広く利用できることを目的として取得しているとのことである。 このような知的所有権の考え方は,オープンソースソフトウェアの世界でよく知られた Gnu での知的所有権の主張と同じ方向性を感じる。 Gnu は特定の企業などによる権利の独占を防ぐことを目的とする一方で,技術開発上の問題点も指摘されている(各企業の独自技術の開発意欲をそいでしまうことなど)。 山中さんの特許申請が,それを利用して開発した技術を開示することまで要求しているかどうかはよく知らないが,新しい視点での特許申請は,元来科学知識は普遍的なもので,全人類により広く共有べきとの立場からは大いに期待される。
おまえに言われんでもわかっとるわい,といわれそうだが,この方向での報道は見かけないので書いとく。

2014/10/08補遺
更新をそろそろやめようかといいつつ,結局今年も更新してしまう。 今年の物理学賞は青色LEDだ。あ,いや,LEDが受賞したのではなくLEDを開発,商品化した人たちが受けた。わかっとるわい!と自分で突っ込んでおいて これほど目に見える形で身近な生活に浸透している科学的成果にノーベル賞が贈られるのも珍しい。報道を見ていても,いつもの受賞報道でよく聞かれる“研究の内容はよく分からないんですが...”というMCの発言はほとんど聞かれない。 じゃあ,研究の内容が分かって報道しているか,というのは全く疑問。研究の経緯について詳しく知るものではないが,いろんな意味で有名な中村修二氏以外に,その基礎をつくったお二人にも同時に賞が贈られたのは,基礎(応用基礎ではありますが)に目を向けているゆえんと思う。 今から25年近く前,物理学会のあるセッションでの発表が,軒並み中村氏の名前が入っていたのを思いまだしました。多分試料を提供してたのね。 ノーベル賞とは関係ないが,青色LEDは徳島県の地場産業なので,もっと売れて地元が潤うといいのにね。○亜丸儲け?????どっちにしても私の給料が増えるわけではない。失礼。

2015/10/06補遺
今年も更新することにした。仕事の内容は全く理解していません。大変に役に立つお薬を開発されたのだとか。それ以上のことはわかりません。あしからず。

2017/10/07補遺-1
去年,梶田隆章さんのことについてコメントしないまま放ってあったことに気がついた。 詳しいことは別として,中性微子というのに質量があることなど,私が学生だった頃は思いもしなかった。 学生時代に読んだ本では,(当時)知られている範囲では質量は0と思われる,的な書きかたがしてあったように思う。 啓蒙書レベルの知識を書き換えるような,決定的事実が次々と出てきて,科学の根本的な部分での進展が激しい研究分野だ。 ちなみに,受賞後同氏の研究所は,重力波の検出実験に関連してもマスコミで取り上げられることがあり,今後そちらでも注目されそうだ。

2016/10/07補遺-2
今年も日本人受賞者が出て,同僚から催促されたので更新することにした。 生理学・医学賞である。 報道を聞いている限り,細胞内の大変基礎的なプロセスに関する基礎研究をなさったのだとか。 とはいえ,詳しい研究内容も,そのすばらしさも,理解できず,「我紹介する能わず」だ。 残念!

2016/10/07補遺-3
ここのところウェッブサーバーのアクセス解析がちゃんと動いていないような気がするので,最近のアクセス傾向はよくわからなかったりするが,あまりこのページへのアクセスも多くはなさそうだ。 いぜんは,このサーバーの上位2番目(1番目はタイガース優勝の歴史)だったが,最近はどうも違うところに訪問者が多い。 「ノーベル賞 日本人受賞者」などとGoogleで検索すると,1年ぐらい前は最初の3〜4番目ぐらいに出てきていたが,今日は,どこにも出てこない。 この時期はニュースサイトへのアクセスが多いからかもしれないが,最近はあまり見てもらっていないのだろうな,と思っている。 Wikiでももっと情報豊富な同様のページができているし,さらに国別受賞者リストまであるようだ。 元々人気サイトではないから,落胆するようなものではないが,ちょとだけ寂しい?


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